短い夏だった。
夏といえば、どうしても子どものころを想いだしてしまう。
宮川の流れに石を積みあげて六畳ほどの敷石地をつくり、夜に花火で遊ぶ。
町内の空き地につくられた子供相撲の土俵で、私は針金よりも細く頼りない体で相撲を取り、町内の役員のはからいで、相手がわざと負けてくれた相撲の景品の炭一俵に母親が泣いて喜んでくれた……こと。
相撲が終わると中橋の川上にあるカマクラと呼ぶ水浴び場に飛びこみ、真っ暗な水中で砂をおとし家路につきながら、ひとつふたつと明かりを灯しながら舞う螢のすがたを追う。
「ヤケドをするぞ」
友の声に恐るおそる螢を手につつみ、両親が夜おそくまで商売をしていて、だれもいない暗い家に帰り、蚊帳のなかにそっと螢をはなつ。
緑色の熾火のように点いては消え、消えては点く螢を見ながら、私は闇にすいこまれてゆく。
あれから半世紀、ことしの夏、私はひさしぶりに螢狩りにでかけた。
夜の8時近く、螢がおおく舞うという川のある田園地区だ。
見物客はすくない。よく翔ぶ日と、そうでない日とあるらしいが、その日はじつによく翔んでいた。
淡い緑の色を点滅させながら、川の両岸に螢が「乱舞」していた。
目の前に音もなく、緑の珠が近づいてくる。螢はいまでも熱いのか。恐るおそる手をのばし触れようとすると、螢はす~っと遠のいてゆく。
ちいさな、豆粒のような螢は、源氏螢だろうか、十数匹、暗闇に明滅しながら、私の目の前をとおりすぎてゆく。
しばらくすると二匹の螢が、私の前を行ったり来たりしはじめた。
恋人同士だろうか……その幻想的な光景に見とれながら、私はおもわず自失をする。
やがて二匹の螢は、追いつ追われつして川上の闇に溶けていった。
と、だれかが私の背後でちいさく呟いた。
「ながれ螢……」
見るに、二匹の螢が川上から流れてきた。
音もなく、ただひたすら宙にたゆたう無数の螢の下、力つきた二匹の螢が。

二匹は私に仕掛けてきた螢だったのだろうか。
点滅は心臓の鼓動だったか……仄暗い緑の火は灯ったまま停止し、蛍は、そして流れてゆく。
目の前を流れる螢を追いつつ、私はふいに過去に連れ戻される思いにかられた。
流れてゆく螢が一匹だったら、そうは思わなかったにちがいない。
二匹だったからこそよけいに……。
あれは父と母だったか。