普段から食べ歩きが好きな私は、今回の旅行でも食べることが大きな目的の一つであった。いつもと違うのは場所が日本では無く、イタリアであるということ。普通に日本人が誰でも行くような店では面白くないと思い、ガイドに地元で人気があるというお勧めの店を特別に聞き、無謀にもそこに向かった。
夜7時に開店するということで、10分くらい前には店に着いたが、やはり開店しておらず、少し待つことになった。
7時を回ったが、まだ開かない。中を覗くと十数人程度の男達が宴会をしていた。まさか本日も貸切りで入れないのかとも思ったが、既に自分達以外にも客が沢山集まっていた為、もう暫く待つことにした(実はその前日に予め調べて行った店が貸切りで入れてもらえなかった)。
7 時15分を過ぎた頃、ようやく開店。中で宴会をしていたのは店のスタッフ達であった。さすが大らかなイタリアーノ達、定時なんて細かいことは気にしないのである。大らかな気持ちで迎え入れてくれた。
案内されて席に着くと正にそこからが試練であった。なにせメニューも何もかもがイタリア語である。周りを見渡しても嫁と自分以外は間違いなくよその国の人ばかりだ。英語も満足に話せない私達にとっては明らかにハードルが高いように思えた。暫くすると私達のテーブル担当が注文をとりにきた。ふと、嫁の顔を見ると明らかに緊張している。「メニュー選びの主導権は全てあなたに譲るわ。」とその日に限っては、そう言っているのが眼を見ただけで良く分かった。
冷や汗が垂れてきそうなくらい焦ったが、それを悟られまいと必死にメニューを見る。「分かる訳が無い、どうしよう。」と思いながらも、それでも見るしかない。すると何とか分かるものがあった。イタリア語は基本的に意味は分からずともローマ字読みで発音は出来る言葉である。日本でもおなじみのイタリア料理“ペンネ(パスタの一種)”“ミネストローネ(野菜の沢山入ったトマト風味のスープ)”等については何とか理解できた。当然注文する。少し分かったことで、調子に乗り、何か分からないものについても何品かオーダーした。
注文を終え一仕事を終えたような満足した気分でテーブルを見ると、いつもの見慣れた液体がどでかい瓶に入れられて、いかにもご自由にという感じで置かれてあった。
「キャナイ ドリンク イット?」
指を指して聞いてみると、「イエス ワンドリンク ワンユーロ」ということであった(実は大体飲食店等の客商売の人には片言の英語で通じる。)。
中身はもちろんワインである。ここでは水より安い。
暫くすると料理が続々と運ばれてきた。どれもおいしいものであったが、どれも非常に量が多かった。肉なんか厚さだけで10センチ近くあるようにみえたが(面積は10センチ×20センチくらいあった。)、結構年配のご婦人でもパスタを食べた後に普通にそれを平らげていた。こちらも負けじと注文したものは全て二人で平らげた。ワインも二人で10杯は飲んだであろうか、スリリングな気分も味わえ、腹も心も満足することが出来た。
気がつくと10時を回っており、次の日のこともある為、会計を済ませ帰ることにしたが、帰り道に嫁と話しをしながら、ふと気づいた。ワインの代金を支払っていなかったのである。レシートには金額しか書いていなかったから、何にいくら支払ったのかは分からなかったが、何杯飲んだかは自己申告制であった。完全に忘れていた。申告はせずに支払いを終えたのである。終止飲み続けていたのであるから、当然私達のテーブル担当者は見ていたはずであるが、支払いの時にそのことには何も触れなかった。さすが大らかなイタリアーノ達、ワインを何倍飲んだなんて細かいことは気にしないのである。大らかな気持ちで見送ってくれた。
日本とは料理も人も一味違った。
N.H
