「12グラム」という映画があった。
人が死ぬと、ひとしく12g相当身体が軽くなる。実際に量ったデータであるという。
軽くなるのは魂が身体から抜ける。だから魂の重さは12gであるという理屈である。
とはいえ人は死したら重くなる。
人は死んだらどうしてこうも重たくなるのか、そう言ったのは久世(光彦)であったか。私にもいくどか棺桶を担いだ経験があるが、やたらと重かった憶えがある。
漱石の「夢十夜」のなかの第三夜に、有名なくだりがある。
「御前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」
自分はこの言葉を聞くや否や、今から百年前文化五年の辰年のこんな闇の晩に、この杉の根で、一人の盲目を殺したと云う自覚が、忽然として頭の中に起った。おれは人殺しであったんだなと始めて気がついた途端に、背中の子が急に石地蔵のように重くなった。
人が死んだら、あの世へ楽しかった想い出だけを荷物として持ってゆくのだろうか。
死んだ人が重たくなるのは、きっと生前、人には言えなかった悲しみや苦しみの記憶を、あの世の道連れにせず、この世に遺すために身体に刻みこまれた重さにちがいない。
さて、私はどれだけの重みを遺して逝くのだろうか……。